再会があった。

「あぁ、やっぱり君だったか」

安堵したような、親しげな笑顔で歩いてきた彼はが思考停止して突っ立っていたときに腕を掴んで港まで連れてきてくれた男性だ。

「乗り込めたかと、心配していたんだ」
「無事置いて行かれないで済みました。ありがとうございます」

丁寧に頭を下げたに、男性は軽く笑って気にするなと肩を叩いてくる。裏表のない、快活な性格らしい。

「奥さんはどうされたんですか?」
「あぁ、休んでいるよ。といってもこんなんじゃ休んだ内には入らないだろうが、お互い軍艦だと思って諦めてる」
「旅客船、というわけにはいきませんからね」

答えると、男性は確かに、と言いながら苦笑した。

「まぁ、家は駄目になったが、俺もあいつも生きてるんだ。何とかなるさ」
「そうですね」

前向きな表現と、にかっと笑う男らしい笑顔につられるようにも笑顔になる。妻の所に来ないかという誘いを受けたが丁寧に断り、区画を聞いて後で挨拶に行くと答えて別れた。別の通路を歩いていく男性の背中を何気なく見送っていたとき、ふっと疑問が浮かんだ。

「……標準語、同じなんだな」

ポン、と手を打って納得するとアランとちびっ子達の姿を探し始めた。今更の考えだった。


***


アランは見つからなかったが、ハロを伴ったちびっ子達は見つかった。わいわい騒ぐ三人を見るのは正直心が和むし、見ていて飽きない。

「ほらぁ、ハロそっちにとんでっちゃったじゃない!」
「えぇ!?だってしょうがないじゃんか!」
「二人とも、あんまりさわいじゃ駄目だって!」

ころころと転がるハロを追いかけていくちびっ子達の後ろ姿を微笑ましく眺めるものの、遊び道具とかしているハロが哀れに見える。手荒な扱いに中身が悲鳴を上げないのだから、それなりに耐久性はあるようだ。目のような部分が世話しなく点滅しているのは気のせいではないだろうが、はあえて気付かないふりを通した。

もハロをおっかけてよ〜!」

キッカが振り返り、笑顔で手を振ってくる。親しい者を見る目に、笑顔を浮かべてみせた。

「あ〜、無理無理ー。早く捕まえないと行っちゃうぞー」

聞いているのかいないのか、上の空の返事をされるが返した方もあまり考えていない。ハロを追いかける足を止めないが、きちんと後からついて来ているかを三人の内誰かが必ずちらちらと見てくる。随分と懐かれてしまった。
考え事をしながら歩いていた最中、通路の角から飛び出してきたちびっ子達の、を見たときの嬉しそう顔といったら、笑顔を投げられた側が思わずたじろいでしまったほどだ。

もいっしょにくればよかったのよ!すごかったのよぉ』

膝を折って目線をあわせたに、キッカは興奮気味に続きを語ろうとしていた。それを止めたのはカツで、両手で小さな口を塞いでしまうと、慌てた様子を隠さずに何でもないと必死に頭を横に振る。レツが罰の悪そうな顔で余計な一言を言った犯人を睨んでも、その犯人は何処吹く風だった。まぁ、多少は反省していたようだったけれど。

「ともかく、あんまり動き回らないようにな」

キッカの頭を撫でてやるだけで、は何を聞くこともしなかった。
仮定でしかない考えを第一としたくない。それ以前に、何を基準にしていけばいいのかわからないのだ。それらしく考えたところで、結局行着くところは一つだけでしかない。

−参ったなぁ

場を濁してやり過ごすには最も適した単語である。
転がるハロを止められずに追いかけていく三人の後をゆっくりと着いていく。あまり騒がしいようなら止めなければいけないが、彼等もそれなりに必死らしい。待ってと言いながら追いかけていく姿が微笑ましいく、壁に寄る避難民達の目もあまり邪険ではない。そこは子供の特権だ。

「もー、ハロまってぇ!」

転がるハロだが、止まらない。寧ろ逃げている、ように見える。手荒くしたことへのちょっとした報復だろうか。

「ペットロボット、だっけ?」

フラウからして友達らしいが、はて、と頭を傾げたときだった。逃げるように転がるハロを、良いタイミングで軍服姿の少年ががしっと捕まえた。癖毛のある、ブラウンの髪色と幼い顔立ちにきりっとした軍服が素晴らしいほどあっていない。

「あ、アムロだ」

レツが弾んだ声をして少年の名を呼び、キッカやカツも、同じ反応をした。フラウが後を追いかけていた、あの少年だ。

「きいてアムロ。ハロってばどんどんさきにいっちゃって、とまってくれなかったの!」

キッカが怒り半分、甘え半分で言いながらハロを睨んでいる。後ろにいたカツとレツが顔を見合わせて小さく笑いあっているを気付いていないキッカだが、少年は三人を見下ろすとぎこちなく微笑んでハロをカツに渡した。

「あんまり乱暴に扱わないでやってくれよ」
「はーい」

返事だけは立派なキッカが、あっちに行こうと二人を誘っている。そんな三人を数歩後で眺めていたに、真っ直ぐな視線が投げられた。目と顔を僅かに上げていけば、当然の如く少年とばっちり視線がかち合う。勢いよく逸らしたのは少年で、小さな縦皺が薄く一本、眉間に浮かんでいるのがわかる。疑問符が浮かんだ。
不快な思いをさせた覚えはない。それ所か、擦れ違ったのが一回のみで、会話など交わしてもいないのだ。不快、と受け取られるいわれもない。

−…ま、良いか

少年が何を思って不快と感じたのかはわからないが、別段興味があるわけでもない。面倒にならない内にさっさと退散するべきだろう。

もいこうよっ」

キッカの無邪気な声だ。タイミング良い子供達からの純粋な誘いには笑顔で頷いた。

「良いよ」

カツとレツが嬉しいと顔全面に出しながら先に歩き始めてしまったキッカを追いかける。振り回されているのは二人の兄貴分らしい。カツは真面目で、レツは表面的には仏頂面をしていても妹要素のあるキッカをどうしても放っておけないのだろう。逞しいなぁと半ば感心しながら少年の横を通り過ぎた足は、半歩先の所でがっしりと服を掴まれてピタリと止まることになった。

「うぉう」

皺になる、と考え半分で間抜けた声を出しながらも、怪訝な顔で振り返る。服を掴む彼の表情は一転、困惑気なそれに変化していた。こっちが何だと言いたくなる。

「…あの」

言い惑う少年を見るの耳に、カツの呼ぶ声が聞こえる。前と後ろ、両方から挟まれても、分裂して対応する芸は持っていない。いつの間にこれほど人気者になったのか。

「…参ったな」

苦く笑いながらの一言だった。








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