は癖の強い人間と会話することに慣れている。
接してきた相手の大半が救いようがないほど【アク】と【クセ】の両方が強すぎていたこともあり、そんな彼らに鍛えられていた。こればかりは、紛れもない事実だ。相手が多少屈折していたとしてもあまり問題はないし、そちらの方が扱いやすい場合もある。
つらつらと考える途中、懐かしさなど欠片も感じさせない顔ばかりが脳内を生々しく横切っていき、は僅かに目を細めた。嫌なことを思い出したせいで肩が一気に重くなった心地になる。

「あの…」

控えめな声で小さく傾げ始めた頭を持ち直した。頭が痛くなる考えは今は無しだ。一人用ならある程度広く、男が二人はいると流石に狭く感じる個室で、は両腕を組んで入り口の扉に寄り掛かり、連れ込んだ相手は所在なさげにベットに腰を下ろしていた。

「無理矢理すみません・・・」
「あぁ、良い良い」

俯いたまま謝る彼に、小さく苦笑して答えた。微妙な沈黙から既に数分が経っての会話は、別段不快でも何でもないのだが、相手は違ったらしい。話し始めるのを待って、黙ったままだったのが悪かったのだろうか。
あの後、ちびっ子達に用事があるからと言い含めて先に行かせると(さっさとハロを追いかけていったのには少しの虚しさを感じた)、掴まれたままだった袖と少年を見て、離してもらえるかと問い掛けた。慌てて手を離し、謝罪しようとするのを制して、ともかく落ち着ける場所に行こうと提案する。そして案内された場所がこの部屋だった。
個室を宛がわれていることに驚いたものの、よくよく考えれば軍属でパイロットらしいのだから納得出来る。面識の殆どないが服を掴まれて呼び止められる、という事態には頭を捻るが、相手から切り出さないのなら、こちらから切り出せばいいだけのことだ。

「ともかく、お互いに自己紹介からいこうか」

もたれていた扉から重心を起して傍に寄り、よっこいしょと呟きながら目の前で胡座をかいた。備え付けのディスクにある椅子を引っ張ってきても良かったが、一々動かすのが面倒だった。

ね。で良いから」

よろしく、とグローブを嵌めたまま右手を差し出した。見上げる態勢となったは、目を白黒させて困惑している彼に、にっと笑ってみせる。

「ア、アムロ・レイです」

戸惑いながらも、おずおずと差し出されていた手を握るアムロに、しっかりと返した。

「アムロって呼んでも?」
「あ、はい。平気です」
「わかった。あ、ちなみに敬語はいらないよ」

手を離しながら付け加えると、アムロは更に困惑を深くする。

「堅苦しいの、好きじゃないんだよ。まぁ、言いづらかったら敬語のままでも良いけど」

肩を縮めて言い添えた。どう返したら良いのか、という表情だったアムロだが、気の抜けたような返事をして何とか頷いてくる。反応は鈍いが悪くない。

「よし、これで自己紹介はすんだ。じゃ、早速アムロの質問を受け付けようか」
「え?」
「何か聞きたいこと、あったんだろ?」
「あ…」

途端、言葉が出てこなくなり、視線が彷徨って、逸らされる。は根気強く口を開くのを待った。

「……あの、フラウ、とはどんな関係なんですか?」
「フラウって、フラウ・ボゥのこと?」

軽く頭を傾げて問い直すと、アムロは小さく頷いた。

「彼女とは、港で知り合ったんだよ。我先に避難しようと押し合いへし合いの状態になってた中で必死にチビ達を守っててね。誰かに引っ張られて、危うく倒れそうになったのを支えたのが俺で、そっからの知り合い」
「なら、貴方もサイド7の住民なんですね?」
「まぁ居たというか…あそこから避難してきたわけだからね」

言葉を濁しながら当たり障り無く答える。住民、と括られてしまうと非常に答え辛い。下手に誤魔化せば後々帳尻を合わせるのがまた一苦労、ということになりかねない。フラウと同じ年齢だろうアムロに、自らの境遇を話してどうなるか。奇人変人の烙印だけは押されれたくない。
納得していない態のアムロから目を逸らして小さく唸りながら、これ以上追求されないためには、と考え、はたとある事柄が思い浮かんだ。

「そういえば、アムロってガン、ダムっていうのに乗ってたんだって?」

確か【ガンダム】とフラウは言っていたはずだ。間違っていなければ。
だが、その問いにアムロは目に見えて肩を震わせた。顔が強ばり、警戒色が全身を覆い始めている。まずったか、と咄嗟に後悔したが、既に口にした後なのだから、訂正するわけにもいかない。

「あー、そんな警戒するなよ。別にそれについて根掘り葉掘り聞こうなんて思ってないから」
「…フラウから聞いたんですか」
「彼女は心配してたぞ」

肯定も否定もせずに言うと、アムロは眉間に深く皺を刻んだ。がかち合う前に繰り広げたらしい喧嘩のことでも、思い出しているのだろうか。あの時は一方的な無視を決めていたようだが、だとしても、伝えたいことはそれではないのだから、深く考えてもらっても困る。

「俺としては、一つ礼を言いたいんだよ」

アムロの両目が大きく見開かれた。

「経緯はどうあれ、アムロがそのガンダムっていうのに乗って、ジオンのモビルスーツを追い払ってくれてなかったら結構やばかったかもしれないからな。コロニーから脱出できたのに、逃げた早々軍艦と一緒に宇宙の藻屑になりました、何て話しじゃ洒落にもならないだろ」

単語単語をどうにか突っ掛かり無く口に出来たは、内心でほっと肩を下ろしながら、言葉ないアムロに小さく頭を下げた。

「ありがとう」

フラウは十五歳だと言っていた。なら、アムロもたいして変わらない年齢で、しかも民間人のはずだ。その、まだ子供、と称されるべき彼が最前線で戦争のプロである軍人相手にその身を晒していたとなれば、何とも居たたまれない話しである。一人なのか連携なのか、どう動かしたかはわからないが、最悪の事態を避けるために彼が大きく貢献していたなら、礼はあって然るべきだろう。

「ボ、ボクは、別に…死にたくないからやっただけです」
「あぁ、俺も死にたくない。誰だって同じだ」

わけの分からない状況のまま穴の空いたコロニーで死ぬのも、知らない軍艦内で爆発に巻き込まれて死ぬのも。
どちらも不本意だ。

「だから、ありがとう、なんだよ。俺は死んでないし、アムロも死にたくないからガンダムに乗った。で、回避した。何もせずにいれた側からすれば、礼くらい言わないと気が収まらないんだって」

ひらひらと手を振り、笑ってみせた。困惑したり戸惑ったり、そして今は途方に暮れたりと、世話しなく変化する相手の表情と落ち着かない様子に、前科がある身としては余程おかしなことでも言ったかと、反芻してみる。たいして目立つ発言はせずに真っ当な考えを述べただけのことであって、反応に窮するようなものではないはずだ。多分。
人差し指と親指で左の耳朶を軽く揉み、ふむ、と考えた。

−会話が苦手なのかな。というよりも、溜め込むタイプか

内向的、とも表現できる。
思わず俯いて黙っただったが、それが良かったのか、アムロはおずおずと閉じていた口を開いた。

「本当は…」
「ん?」
「本当は、自分でもどうしてさんを止めたのか、わからないんです」

太股の上に置いた両手を一心に見下ろしながらアムロは先を続けた。

「…何か、話さなきゃって思って、それで…でも、だからって何を話したいのかわからなくて…」

段々と小さくなる声を聞きとめ、続くかもしれない言葉を待ったが、結局声にされなかった。深く俯いた、というより項垂れてしまっている。見上げているからも表情が窺えない。だが、何となく、その顔がどうなっているかは想像できる。
耳朶を挟んでいた手を今度は頬にして掻と、ともかく下がった頭に手を置いて軽く二度、叩いた。勢いよく頭をあげて凝視してくるアムロに、腕を伸ばした態勢で動きを止めながらも苦笑する。表情は豊からしい。

「無理するなよ」

腰を浮かせて立ち上がり、癖のあるブラウンの頭をまたぽんと叩いた。
ボキャブラリーの足りない頭では、他に適当な言葉が思い浮かばなかったのである。








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