| どうして軍人以外許されない区画にいたのか、という説明をするのは大した問題ではない。問題なのは一般人然としたが格納庫という特殊な区画にいて、キャットウォークから巨大な人型の兵器をしげしげと眺めていることにある、のだろう。我ながら冷静な分析力、と考えずにはいられない。 「何というか、まぁ、圧巻だねぇ」 嘆息しながら出した声は、案外力が入っていたようだ。響いた声に口を閉じながも眺める態勢は変わらない。 「あの、一応軍の最高機密に指定されてるみたいなんで」 「ここまで来て見るなって言う方が無理だろ」 言いながらも、途中で途切れたアムロの言いたい言葉に従って巨大な兵器から視線を外した。 白のカラーリングを基調とした頭部に、青が目に映える胸部。その中央はぱっくりと開かれて、中にシートが見えた。コックピットの類だ。 「そういえば、さっきの爆発音とかあったみたいだけど?」 何気なくアムロに顔を向ける。投げ掛けた質問の内容はあまり賢くはない。理解していた。 「あぁ、ジオンの兵士が基地に侵入したんです」 「さっきのはその侵入した工作員の一人?」 「そうです。爆発は別の場所からみたいで、ホワイトベースには被害はないみたいですけど」 「ホワイトベース?」 「この艦のことです」 「ほー…なるほどね」 ジオンの工作員が基地に潜入し、爆発を起して掻き回したらしい。アムロも詳しいことは艦内にいたせいで知らないようだが、意図は簡単に察せられる。多数が内部を攪乱して騒ぎに意識を向けさせることで、少数が本来の目標に接近しうるよう手を施す。 奇襲方法としては基本中の基本だ。となれば、基地内の制圧は全く問題にならないだろう。徹底した制圧作戦が遂行されているなら、既にこの基地は今頃相手の手中に握り込まれているはずだ。実際、既に爆発音は静まっていて、侵入した工作員が撤収したことを示している。 『連邦軍がサイド7で新兵器の開発をしていたのだよ』 アランはこう言って連邦軍のやり方を批判していた。 『アムロがガンダムに乗るのが嫌だっていう気持ちも、わかるの』 落ち込んでいたフラウはガンダムのパイロットは今傍にいるアムロだと、言っていた。そしてあの、赤い宇宙服を着込んでいた軍人は、この人型の兵器の傍にあってセイラと対峙していた。 そうなれば、導き出せる答えは一つしかない。ちらりと横目で人型の兵器を見た。 −ほんと、こりゃ参った 新型の兵器と軍艦に乗り込んでいるのなら、しつこく迫ってくるのも頷ける。相手からすれば戦況のバランスが傾く事態を避けるためにも、実戦配備される前にこの人型の兵器なり軍艦なりを破壊しようと躍起になるのは当然だ。無謀な基地内への潜入も辻褄が合う。もしかしたら情報のみを盗もうとしたのかもしれない。それはセイラとアムロによって阻止された形となり、不自然ながらも彼等は破壊工作を断念せざる終えなくなった。つまりこの基地にある正規の軍人達は完全に相手の作戦に乗せられた、というわけになる。 「…セイラ、医務室、途中までついてくよ」 馬鹿かー、と呆れの一言を内心で大きく叫んで、さっさと思考を切り替えた。考えるだけでも頭が痛くなるからだ。 「いえ、平気よ。一人で行けるわ」 「無理しない。それに、見た方としては結構心配なんだよ。あんだけ容赦なく捻られてたんだから」 驚いた顔でアムロが目を向けると、罰が悪いというようにセイラは視線を彷徨わせた。 「そんなに酷いんですか?」 「それをこれから診てもらうんだよ。さっさとしないと今の騒ぎでここにも人が来るだろうし、そうなると医務室どころの話しじゃなくなるぞ」 それでも尚渋るセイラに、は小さく息を吐いてから強硬手段に出た。 「はい、さっさと動くっ!」 痛めていない肩をぐいと押して回れ右をさせ、背中を軽く押そうとした手は触れる前にピタリと止まった。視線は前に、耳は荒々しく聞こえてくる複数の足音に。そしてドックに入ってきた彼等が、特にを見て放った第一声はありきたりでシンプルな、最も適したものだった。 「貴様、何をしているっ!」 下からもばたばたとした足音や声が響き始めている。ここでは軍服を着ていない者が不審者となり、対象は一人しかいない。しかも今は奇襲のあった直後だ。三白眼になって構える彼等の雰囲気は臨戦態勢の良さをびしばしと伝えてくる。 「…だから言ったんだよ」 視線を明後日に飛ばして呟いた。聞こえたセイラは僅かに済まなそうな顔をしてちらりとを見上げてきたのだった。 *** 「全く、お前さん本当に何をやっとるんだ」 呆れが大半、心配が少々のアランが何度目かの言葉を投げてくる。は苦く笑って同意するように頭を軽く傾げた。肩を上下させる盛大な溜息を返されたが、他に返事のしようがない。 あの後、問答無用で不審者扱いされかけたの身を説明したのがアムロとセイラの二人だった。 持ち前の鋭さを感じさせる眼差しのセイラと、軍属の証である軍服を一応着込んでいるアムロの言葉に、はじめは全く聞き耳を持たなかった軍人達だったのだが、ジオンの工作員によって負傷させられたセイラの肩とそれを助けようとした(いつの間にかそう捉えられていたらしい)の話をすると、彼等はまず驚きで固まった。 更にアムロが自分も命が危なかったのだと畳みかけると、彼等は何とも形容しがたい顔をそれぞれ浮かべ、ようやくに貼り付けていた不審者のレッテルを剥がしたのである。誰かが先端が妙な具合に焼けこげた鉄の棒を発見したことも後押しの一つとなった。それでも民間人が格納庫に入るな、動き回るな、許可なく居住区以外をふらつくな等、口喧しく説教を垂れることは忘れなかったところは、悔し紛れに見えて仕方がなかった。八つ当たりかよ、と口に出さない突っ込みは、すいませんと棒読みの謝罪で打ち消した。騒がしいドックから早々に退散してから、尽力してくれたアムロとセイラの二人には深く頭を下げて礼を述べた。 「助かったよ。ほんと、ありがとう」 アムロは妙に慌てた素振りで気にしないで下さいと言うと、止めるセイラを強引に医務室につれて行ってしまったのである。そして何人かの軍服に睨まれながら居住区に戻った先で、今度はアランの説教が待っていたのだ。 トイレと言って姿を消してから中々戻ってこなかったことで、どうやら心配して探し回っていたらしい。厳しい監視と警備下で、奇襲を受けたのだ。気を揉む彼の気持ちも、わかる。説明を聞いたアランは雷の如くがみがみと文句を垂れた後、深く息を吐いて皺の多い手をの肩に乗せて言った。 「無茶をせんでくれ……心配したんだ」 深い安堵を滲ませて吐き出された言葉だ。どれだけ身を案じてくれていたのか、その顔が物語っていた。 「すみませんでした」 ねちねち八つ当たり紛いの説教をしてくる軍人相手に繰り返していた平坦な謝罪ではなく、言葉の通り感情を込めて謝罪した。アランは、肩に置いた手でまた小さく肩を叩く。 「無事で、良かった」 吐息のような一言に、は置かれた手にそっと自分の手を重ねて握りしめた。グローブ越しで、感触はわからなかったけれど、それでも、気持ちは伝わったと思いたかった。 それからアランは、会わないといけない奴がいる、と言い残してどこぞに赴いてしまったのである。以前、似たような場面があったことをふと思い出して、歩いていく彼の背中に投げ掛けた。 「ご友人でも乗艦していたんですか?」 軽い調子だった。特に返答も期待していなかったのだが、僅かな沈黙の後、彼は振り向かないままで答えを差し出してきたのだ。 「…古くからの知人だよ。【友】じゃない」 「……アラン?」 「ふらふら動かないようにの」 小さく肩を落とした彼の姿が通路を曲がって見えなくなっても、は逸らせずにいた。予想に反した答えの中に、小さな落胆が混じっているように感じられたのは気のせいではないだろう。何かあったのだろうかと考えてはみるが、会うといっていた相手が誰かわからない以上予測をつけようがない。想像の翼は折り畳むしかなかった。 「大丈夫、かな?」 ぼそりと呟いた直後だった。 「!」 後ろからの声に振り返ると、ちびっ子達を伴ったフラウが笑顔で歩いてきていた。 next back |