「やっぱり!あのときのおにいちゃんだ!」

幼い少女が喜色満面の笑顔でを指さしてくる。それを左隣にいた黒髪の少年がこら、と注意していた。右にいた褐色肌の少年も嬉しいと言わんばかりの笑顔だ。

「あ、君等…って、おわっとっ」

飛び付いてくる金髪の少女をキャッチして、同じく駆け寄ってくる二人の少年に視線を向ける。

「おにいちゃんものれてたんだね。キッカもがんばってのったの!」

勢い良く顔を上げた拍子に頭の天辺に括られた可愛らしい赤いリボンが揺れる。元気良い少女に笑みを浮かべて頭を撫でた。

「そっか、あの後三人だけになったから少し心配したけど、よく頑張ったね」

撫でていた手とは逆の手で少年二人の頭もぽんと軽く叩く。黒髪の少年は照れたような笑顔になり、褐色肌の少年は俯きながらも満更でない表情だった。子供らしい素直な表情だ。

「えーと、君がキッカ?」

まだ腕の中にいる少女に問い掛けると、嬉しそうに頷いてくる。

「うん、キッカよ。それでカツにいちゃんとレツにいちゃん」

少年二人のことだろう。どっちがどっちだと思い、小さく首を傾げるとまずそれに気付いた黒髪の少年が口を開いた。

「この子、キッカ・キタモトっていうんです。ボクはカツ・ハウィン。さっきはありがとうございました」
「…レツ・コ・ファン」

まるで対照的だ。カツは折り目正しく頭まで下げて挨拶にお礼をつけてくる。レツは視線を合わせないよう俯き加減でふて腐れた態度だが、きちんと名前を名乗る事が出来ているのだから上出来だ。は笑顔を浮かべて一つ頷いた。

「折角自己紹介してくれたんだから名乗らないと失礼だね。俺はで良いよ」
?」
「そ、。よろしくキッカ」

聞き返してくるキッカのくりくりとした表情は、愛らしいと表現がしっくりくる。純粋で、素直で、愛情を持って育てられたのだろう。よしよしと頭を撫でて答えながら、両脇に手を差し込むと立ち上がらせる。同じタイミングでも腰を上げると、今まで黙って成り行きを見守っていたアランを振り返った。

「すみません。少しこの子達についていても良いですか」
「構わんよ。わしは節度ある大人だが、その子らは子供だからの。小さい子には誰かがついているのが常識だの」

すっかり口調が変わった、というよりも語尾が元に戻ったアランが手をひらひらと振って、行けと言うのにはもう一度すみませんと頭を下げた。元がああいう喋り口調なのか、それとも興奮すると人格が変わるのか良くわからないが、今のアランは人当たりの良い何処にでもいる初老の態だ。後でまた来ますと告げて、を見上げる三人に顔を向ける。

「三人とも、この船の中はもう見た?」
「うん、じっとしてるのつまんなくって。それにフラウねえちゃんもさがしてたの」
「あぁ、フラウはちょっと用事があるみたいだったから、その内戻ってくるんじゃないかな」
「なら、乗ってるんですね?」

嬉しそうなカツの質問に、レツも反応している。

「元気だよ」

何処にいるかはわからないけど。
思いながらも口にせず、案内してもらえる?と言いながらその場を後にした。


***


フラウと再会できたのは、三人に連れられて許された区域を見て回っていたときだった。その頃には何故か妙な具合に懐かれて(レツはそれほど砕いていなかったようだが気にはなるらしい)、キッカなどは疲れたから抱っこして、と強請ってきたほどだ。
元々子供を相手にするのは嫌いじゃない。年下に懐かれやすい等と周囲からは『保育士』呼ばわりされたことも多々あったが、これほど素直な子供に接するのも随分久しぶりだった。強請るキッカの体を軽々と持ち上げて肩に乗せ、はしゃとうごするのに対して暴れないように言い聞かせる。直ぐに大人しくなっても、また動き出そうとする、の繰り返しでさすがに困りはしたが、あまりに無邪気すぎて強く言うことも出来ず小さな体をしっかり支えてやりながら歩いた。そして歩き回ること数分の後のことである。

「あら、。それにカツ、レツにキッカじゃない!」

T字の脇で鉢合わせしたのは、今までの服とは違う服装になったフラウだった。

「フラウねえちゃん!」

カツとレツが服をチェンジしたフラウに駆け寄っていく。キッカも肩から降りようと藻掻き始める。余程フラウは人気者だったのだろう。降ろした瞬間から駆け寄っていくキッカに苦笑を浮かべずにはいられない。抱っこを強請られた身としては尚更だ。

、三人を探してくれたの?」

まとわりついてくる三人を引き連れながら、フラウが問い掛けてくる。

「それもあったんだけど、この子達の方が先に見つけてくれたよ」
「え?」
「そーよ。はわたしがみつけたの!しらないおじいちゃんとおはなししてたのよ」

声を張り上げて話すのはキッカだ。説明の補足が欲しいのか、フラウはちらりと視線を投げてくる。

「避難民の一人でね。話し相手が欲しかったみたいで捕まっちゃったんだよ。それより、どしたの、それ」
「これ?軍のね、練習生の服なのよ」

可愛いでしょ?と言いながら軽く両腕を広げてポーズまでしてくる。確かに、軍服というには少し柔らかい印象がある。赤を僅かに薄くしたピンクのような色を基調として、女性を意識したそれは正規兵用ではないのだろう。

「うん。可愛いし、似合ってる…もしかして、軍に入ったの?」
「違うわ。艦のお手伝いをするなら、着替えた方が良いだろうって言われたの」

どう違うのか。手伝う、それはこの軍艦の乗員になるということだ。直接でも間接でも、戦いに巻き込まれることになる。

「軍の人、何も言わなかったんだ?」
「何も。それどころか歓迎されたわ。良い心がけだって」
「へぇ」

何が良い心がけだ。
まだ十五の、フラウのような少女の協力さえ拒まない。つまりそれほど人に員が不足しているという証拠になる。彼等の態勢が整っていれば彼女が練習生用とはいえ軍服を着て手伝いなど、あり得るわけがない。門前払いされるのがオチだ。だが、現実は違う。もしかしなくとも想像以上に、かなり緊急な船出だったのかもしれない。
アランの説明によれば、サイド7の崩壊はジオン公国と名乗っているコロニー直属の軍隊、モビルスーツが奇襲をかけたからだということだった。理由は連邦軍が新兵器の開発をしていたということらしいが(これはアランの個人的解釈によるのだけれど今はそれを前提とするしかない)、そこを突かれていたなら被害はかなり深刻のずだ。
本来の乗員がその奇襲によって多く命を落としていたとしたら?補えない乗員は民間人からの協力を仰ぐしかない。非公式な、あくまで個人からの申し出に限り、でだ。『人手が足りないので軍の仕事を手伝ってください』などと言おうものならそれこそパニックは目に見えている。

「…もしかして、セイラ、も?」
「えぇ、セイラさんは艦橋の通信を担当することになったの。今着替えていると思うわ」
「……へぇ、そっか」

人員不足は決定的。寧ろ最悪なまでに不足気味。乗員が足りないのなら、物資も足りないに決まっている。乗り込んだ人間が飽和状態な軍艦内で、何事も起らないはずがない。
参ったな、と呟いたの目にはフラウの足下できゃっきゃと無邪気にはしゃぎ回る三人がいた。








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